Time for Reading

リビングにできた陽だまり、お気に入りの喫茶店、海岸通のベンチ、阪急電車の2列シート、洗い立てのシーツが気持ちいいベッドの中…。いつでもどこでも暇さえあれば本を開いてしまうテイスト&タッチ編集部がおすすめしたい一冊をご紹介いたします。

タムくん

皆さまはウィスット・ポンニミット、通称「タムくん」をご存知でしょうか。彼はタイ王国バンコク出身の漫画家。タイ国内はもちろんですが、日本でも日本語版で漫画を出されていたり、個展を開いたり、人気のアーティストと手を組んだりと各方面に引っ張りだこの人気者です。ファッション雑誌などでも彼が描いたキャラクターはよく出てくるので、知らず知らずに見ている方も多いかもしれません。本日ご紹介しますのはそんな彼が日本で初めて出した短編集「 everybodyeverything 」です。

アオドレス

この本の魅力はまず話に登場するキャラクターたち。どこか丸みのある愛らしい女の子や男の子はもちろん、冴えないおじさんボクサーや目玉だらけのタコみたいな異星人(!)など一風変わったキャラクターたちは愛嬌があり、またみんなそれぞれ悩み(その悩みに「わかるわかる」とついつい共感)を抱えていて、それでも頑張って生きていくその姿に勇気をもらえます。またこの本を読んでいると、当たり前だと思っている日常が実はとても幸せなことだったんだ、ということに気付かされ、読み終えるととても心が温かくなっているのを感じます。

アオドレス

八話収録されているこの本の中からひとつだけ印象的なストーリーをご紹介します。主人公は背の低い男。なぜかはわからないけれど涙ぐみながら電車の端の席に座っています。駅を出発してしばらくすると、車掌が突然電車のスピードを上げはじめます。このままでは事故になると乗客みんながパニックに。車掌は人生に悲観し乗客を巻き込むように自殺を試みたのですが、それに対し主人公の男も「ちょうどよかった」とやさぐれた調子で一人つぶやきます。ちなみになぜ車掌が死にたいと思ったかというと「たった179センチしか身長がなかった」から。夢だったモデルになることができず、だったらいっそ生まれ変わりたいという身勝手な理由からでした。それに激怒したのは主人公の男。車掌室に乗り込みこう叫びます。「生まれ変わらなきゃいけないほど背が低い奴は…この俺だー!身長150センチだぞ!!」

ところが車掌室に何故か車掌はいません。車掌は尚も車内放送で死にたい理由を語ります。妻はミスタイランド準優勝しかできないブサイク、週に一回はケンカする、車掌なんて仕事につきたくなかった…。それに対して他の乗客も自分のほうがもっと不幸だ、と開かなくなった車掌室に向かって叫びます。しかしそう言って不幸自慢する乗客に対して違う乗客が「私はあなたが羨ましい」と言い、またそのことに対して誰かが同じようなことを言いはじめます。そしていよいよ電車が脱線してしまうというところでまた違う乗客が走ってきて、車掌室の前でこう叫ぶ。「車掌さーん!俺のほうがひどいよ!たった149センチしかないー」…主人公の男が夢から覚めると電車は駅を出発する場面に戻っていたのでした。上を見ればきりがないけれど、もしかすると他の人から見れば自分は羨ましい存在なのかもしれない、150センチ”も”ある主人公の男は電車の窓から見える街並みを見てそんなことを思ったのでした。

タムくんの作品は漫画ですが、漫画というよりは絵本に近い感覚で、是非絵と一緒にセットで読んでもらいたいと思います。今回ご紹介したストーリー以外にも面白い話が沢山あるので、機会がありましたら是非ご覧になってみてください。

タムくん

タイトル 『 everybodyeverything 』
作者 『 ウィスット・ポンニミット 』

アオドレス

着用していたワンピースは首元の刺繍やギャザーが美しいアオドレスのもの。ハリのある生地で風の通りが気持ちいいワンピースはこれからの季節にぴったり。

Aodress ファーマードレス ¥49,500-