リビングにできた陽だまり、お気に入りの喫茶店、海岸通のベンチ、阪急電車の2列シート、洗い立てのシーツが気持ちいいベッドの中…。いつでもどこでも暇さえあれば本を開いてしまうテイスト&タッチ編集部がおすすめしたい一冊をご紹介いたします。
「クマにあったらどうするか」という問いかけに対して、皆様はどう答えを返すでしょう。死んだふり?走って逃げる?はたまた木に登る?
街中であれば笑いながら色々なアイディアが浮かぶかもしれませんが、これが自然の中であれば笑っている暇はありません。いきるか、死ぬか。この2択をこれまでの人生で培ってきた知識と、奥底で眠っている動物としての本能を呼び覚まして、選ばなければなりません。
本書はアイヌ民族最後の狩人といわれる姉崎等さんが街での暮らしや狩りについて、そして具体的な「クマにあったらどうするか」の問いについて、インタビュー形式で答える一冊です。クマやその他の動物、また自然との関わりについて淡々と、そしてわかりやすい言葉で語っており、まるで姉崎さんと会話をしているような気持ちで読み進めることができます。
姉崎さんは冒頭に「クマは私のお師匠さん」といいます。その言葉には、いわば敵対する者同士でありながら、命のやりとりをする相手への敬意を感じます。
姉崎さんは幼少のころ貧しい家で育ち、若いうちから働きに出て家族を養っていた方ですが、持ち前の観察力と洞察力により、戦前から戦後の混乱下にあった日本において、狩人として身を立てられていました。この本は「クマにあったらどうするか」をテーマに、人間とクマ(自然)がどう共存すべきかを考えさせられる一冊ですが、それとともに、無差別に与えられたこの人生をどう生きていくかを考えさせられる一冊でもあります。
「クマにあったらどうするか」の「クマ」を「困難」に言いかえれば、「困難に対してどうするか」という問いになりますが、予想だにもしていなかったようなことが現在進行形で降りかかっている現代社会に生きる私たちは、その問いに対して何と答えることができるでしょう。命までも奪うおおきな力をもったクマをお師匠さんだと言いきる姉崎さんの言葉と考えに、そのヒントが隠されているように思います。
タイトル 『 クマにあったらどうするか 』
作者 『 語り手・姉崎等 / 聞き書き・片山龍峯 』
着用していたワンピースはギャレゴ・デスポートより届いた新作。上質なポプリン生地でタマムシのように角度によって見える色がかわります。ネイビーとグリーンの2色展開。 |
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