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冨沢恭子さんの作品は見る人の心を掴んで離さない力強さがあります。それは奥深き柿渋染めの世界に、彼女の人柄と感性が交差し、生まれるもの。今回は冨沢さんが作り出す柿渋染めかばんの魅力をご紹介いたします。

そもそも柿渋染めとはどんなものでしょうか。柿渋は青柿の絞り汁を発酵させてつくられる、古来から伝わる天然染料の一種です。柿渋で染めた糸や生地は防水・防腐・防虫性に優れ、酒袋や漁猟の網の補強に使用されるなど、日本では暮らしの道具として広く浸透していました。

柿渋がもつ独特の色は、染色と絞り、そして乾燥を交互に繰り返し行うことで生まれますが、素材の違いはもちろん、その時の湿度や気温、また太陽の出方で染まり方は劇的にかわります。冨沢さんはその染まり方をみて、裏返したり、干す位置を少しずつかえて生地に染めムラが出ないよう細かな作業を行うそうです。その工程はまるで一人ひとり個性が異なる気ままな子供を育てていくことのよう。そうした太陽と風との共同作業を経て、白くやわらかだった生地は、皮革のように堅牢で深みのある色へと立派に育つのです。

 
 

 
 

こうして手間隙かけてできた生地をハサミも使わず豪快に手で割き、ミシンを思い思いに走らせて、袋状に縫い上げていきます。そのルーツは旅先で見た遊牧民のかばん。狩った動物の革をそのまま袋として利用する潔さと圧倒的な存在感に心が震え、それ以来、柿渋染めの生地を使って自由に伸び伸びと形づくられるかばんをつくることにしたそうです。こうして自然が生みだす生地と作家の感性で形作られるかばんは道具のようで、作品でもある、唯一無二の存在感を放つのです。

余談ですが冨沢さん自身は力強い作風に反してかわいらしく、お話がお好きな方。しかし柿渋染めのことや旅先での出来事から日々の製作に活かしていると話すその口ぶりから、ものづくりを心から楽しんでいることを感じ、そんな彼女の手からつくられるかばん達がより魅力的に映るようになりました。真夏の染色作業はかなりきついものだと想像しますが、一期一会の出合いに触れながら、きっと今も柿渋染めの世界に没頭していることだろうと思います。

 
 

冨沢恭子
1979年生まれ。あるひとつの古い酒袋との出合い、そして袈裟とよばれる僧侶の衣服につかわれる布との出合いが柿渋染め作家の道へと進むきっかけに。現在は柿渋染めのかばんを製作するかたわら、様々な活動を行っている。彼女のかばんは常設されておらず、年に数回開催される展示会でのみ販売。神戸でははじめての開催となるかばん展を d’antan にて8月6日まで開催中。