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今月末に開催予定の「ヨハンナ・グリクセンのある暮らし」。このイベントは同ブランドの代名詞ともいえるノルマンディ・コレクションの生誕20周年を記念して発表された新しいテキスタイルの日本初お披露目となる。その準備のため、今年6月来日したヨハンナが、デザイン関連を中心に、雑誌や書籍で幅広く活躍するフリー編集者の猪飼尚司氏と彼女のデザインルーツについて語ったインタビュー記事をご紹介いたします。
 
 

 
 
代表作コレクション「ノルマンディ」を発表して20 年。テキスタイルデザイナーとしてキャリアを積み重ねるヨハンナ・グリクセンの創作の原点はどこにあるのか。「フィンランドのデザインは素朴シンプルだと例えられますが、その根底にあるのはなんでも自分でつくろうとするDIY 精神にあると思います」 
男性ならば家を建て、女性ならば着るものは糸から紡いでつくるなど、この国では昔から生活の道具は自らつくるという伝統が根付いていた。それは身の回りを飾るという意識よりも、暮らしのベースをきちんとつくること。それがこの国独自のデザインの感覚を養ってきたのだ。
「いまでは教育制度も変わってしまいましたが、私が幼い頃は小学校入学と同時に、家庭科の授業で手芸や裁縫を学ばなければなりませんでした。それが私にとって初めてのテキスタイルとの出会いとも言えるでしょうね」
 
 

 
 
中学校にあがってからも、グリクセンは常に布地と触れ合っていたという。 「たとえば、授業中でも普通に手元で編み物や縫い物をしていました。当時は自由な校風の学校に通ってため、そうしたこともなんとなく許されていたんです(笑)」 
さらに祖母の家で過ごした時間が、彼女の芸術的な感覚と暮らしのシーンを彩る楽しみを同時に育てていった。「アルヴァ・アアルトとともにアルテックの創業メンバーに名を連ねた私の祖母、マイレ・グリクセンは著名なアートコレクターであり、同時代に生きるクリエイターたちの良き理解者でした。アアルトに依頼して自邸『マイレア邸』を1937 年に建てると、そのなかをさまざまな作家たちの作品で置き、家のなかを美しく飾っていきます。私は、祖母の家を訪れることがいつも楽しくて仕方ありませんでした。階段脇に配置されたピラー(円柱)は、森の風景を彷彿とさせると同時に、ジャングルジムのようにみえました。家じゅうの至るところにアート、デザイン、クラフトの新鋭作家たちの作品が置かれていて、まるで美術館のなかで暮らしていたような感じだったのです」
 
 

 
 
感性豊かに成長したヨハンナ・グリクセンは、大学に入学するとフランス語に教育学、美術史と次々に興味を示すようになる。多様な知識を蓄えていく一方で、冷めることのないものづくりへの夢を叶えるために、クラフトスクールへと進路を変更。ここでようやく専門的な織物の技術を学び、テキスタイルデザイナーとしてのキャリアをスタートさせる。「子供時代から現在に至るまで、私の性格はあまり変わっていないかもしれません。良く言えば好奇心旺盛なのですが、一方では飽きっぽくて、いつも先を思い描いてしまう。学校で授業を聞いていても、ときに先生の解説が丁寧すぎると『私が知りたいのはそこじゃないの!』なんて心のなかで思っていましたからね。でもこういう性格だからこそ、クリエイティブな仕事ができているのかも」
 そのたゆまぬ探究心のおかげで、小説のなかに登場したワンフレーズや、異国の地で初めて食した料理の味などから、アイデアの扉は無限に開いていく。ヨハンナ・グリクセンが辿ってきた道を振り返ると、なぜ彼女の作品が創造性豊かに描き日常を彩ってくれるのかが見えてくる。

 
 

インタビュー:猪飼 尚司
撮影:阿部 高之
Sep. 2017

 

 
 

 
 
Johanna Gullichsen
ヘルシンキとトゥルクのあいだに位置するフィンランド南西のちいさな街、ソメロに生まれる。ヘルシンキ大学にて美術史と文学を専攻したのち、ポルヴォー工芸学校で織り技術を修得。伝統的な北欧手工芸と現代デザインの融合をかけあわせたテキスタイルを追求すべく1989 年に独立。ブランド「ヨハンナ・グリクセン」を立ち上げ、オリジナルファブリックを中心に、バッグやインテリア製品など幅広いアイテムを手がけている。
 
 
 
 
 
ヨハンナ・グリクセンのある暮らし
– 20 years of voyages with Normandie –
2017.10.28 sat. – 11.5 sun.
ノルマンディ・コレクションの生誕20周年を記念し、都内3会場で展示、販売イベントを開催!
haus&terrasse(渋谷) / case gallery(元代々木) / 暮らしのかたち(西新宿)
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