イタリア・ミラノに工房を構えるニットブランド〈ユリ・パーク〉。伝統技術を礎とし、ニットへの深い愛情を込めて素晴らしいものづくりを続けるユリ・パークはこの秋冬コレクションで20周年を迎えられます。私たちのセレクトにも欠かせない存在として一年を通してご紹介させていただいていますが、毎年この季節には次の秋冬に向けた受注会を開催しています。今回受注会に合わせてデザイナーであるユリさんに〈ユリ・パーク〉のものづくりへの深い想いをお聞かせいただきました。
YURI PARKの原点
-20周年、本当におめでとうございます。まずは改めてユリさんとニットとの出合いについてお聞かせください。どのような経緯でユリ・パークを立ち上げられたのですか?
YURIさん( 以下YURI ):もともとはアパレルで布帛のデザイナーをしていました。ニットのものづくりはしたことがなかったのですが、一本の糸からつくるものづくり、みたいなものにとっても興味があって。その時の会社にはニット開発室という部署があり、そこへの異動をきっかけにニットの企画・開発に携わるようになりました。
そこでノウハウを学ぶうちに作る側の仕事がしたいと思うようになったんです。そこで手横編み機のことを知って、この技術を学びたいと思ったんですね。その技術を学べるところを探したところイタリアに行き着いて、イタリアに渡ることに決めました。それが2000年で、イタリアに渡った後はニットの学校に通い一から学び、いくつか自分の作品を作りました。そしてせっかくまとまった数ができたんだからお店の方に見てもらえば、というアドバイスをいただいて展覧会をすることにしたんです。
そこで思いがけずもお店からのオーダーをいただいてユリ・パークのものづくりがはじまりました。でもその時はイタリアのおばあちゃんから買い取った中古の編み機ですべて一人で作っていたので、お客様からいただいたオーダーをとても自分一人で作れなかったんです。そこで職人さんを紹介してもらったのが、私の後の師匠となるリナというニット職人のおばあちゃんとの出会いでした。
彼女とのものづくりがはじまってからはニットとは何ぞやというノウハウだけでなくハートの部分、技術的なことまで彼女が教えてくれて〈ユリ・パーク〉のものづくりがはじまったんです。彼女との出会いはドラマティックだったし、職人としてのすべてを私に教えてくれた存在でした。
リナが2005年に亡くなって、すごく悲しくて寂しかったけれど、彼女がすべてを残していってくれました。そのおかげで仕事も続けてこれました。
布帛のデザイナーをしてパターンを学んでいたので、布帛のパターンでニットを作りたいとずっと思っていたんですよ。肩を立体的に包み込むようなフォルムの、今のこのパターンがそうなのですが、これはもともと私がジャケットを作った時のパターンだったんです。これをニットに落とし込みたいと思って。ニットは平面的なパターンが多いのですが、体に沿った立体的な肩のニットを作りたいとずっと思っていて、ニット作りを学んだときにすぐにそのニットを作ったんです。それが今まで続いていて、リナが教えてくれたことと私がもともとニット作りでしたかったことをブレンドさせて、編地の美しさやテンションのことだったりを追求していく作業がはじまりました。リナと一緒に作りながら学んでいき、そして本当に自分がいいなぁと思うニットをどんどん追求していくものづくりになっていったという感じです。
はじめて生まれたデザイン、ボートネックのニット‘ MARINA ’。「名前はリナがつけてくれました。」
永く着てほしいから美しさにこだわる
-ユリ・パークのニットはシンプルな中にもユリ・パークらしさを感じ取ることができます。ユリ・パークらしさを表現するために大切にしていることは何かあるのでしょうか?
YURI:先ほどのお話から繋がりますが、ひとつはユリ・パークのニットとして一番わかりやすいのはパターンかなと思います。立体的に作られている肩のパターンです。あとは私たちの大切にしていることはやっぱり編地の美しさ。この糸だったらこういうテンションで編んであげたら一番良いだろうなということを考えます。それは、お客様に永く着て欲しいという意味合いもありますし、一番美しく見えるんじゃないかという糸のテンションを追求して作っています。もしかしたらそれが表面感、表情として現れているんじゃないかと思います。
リンキング(ニットを縫い合わせる手法)の美しさはなかなかわかりにくいかもしれませんが、ユリ・パークのニットはどこも切らずに増やし目減らし目だけでニットを作っていくんですね。リンキングも目を通して縫っていくのでどこの縫い代を開いてもきれいに目が通っているニットを作っています。それも本当に実際に手にとって開いていかないとわからないのだけれども、ひょっとしたら目に留めた時の印象の中にそういった目の美しさだったりそういったものが伝わるのかな、そうだったらいいなと思ったりしています。
-とても深いお話です。お客様にも実際にニットを見ていただいてお伝えしたいことです。
YURI:そうなんです。深いんですよ。ニットは学んでも学んでもまだまだ果てがない、だから楽しいですよね。
-そこがニットに感じている魅力ですか?
YURI:そう、発見の連続ですよね。だからなんだか、生き物を取り扱っているみたいな。本当に糸が呼吸をしていて、同じコンディションで編んであげてもなぜか同じように出来上がらなかったり、自分で機械に触って編んでいると、やっぱり糸の流れだったりそういうのが伝わってくるんですよね。で、なぜかうまくいかない、とかそういうことがあるんですよ。だから本当に生き物を扱っているような、何でうまくいかないの?どうして?と思いながら糸と対話しています。
お客様と一緒に新しくチャレンジして作ったものなども、何年か経ってお客様がまだ着てくださっているのを見て「ああ、こういう風に変化していくんだ」という発見があります。その風合いからどうやって着てくださっていて、こんな風に育ててくれているんだと想像しますし、お客様と一緒に成長過程を見守らせていただいて、また学ぶことがあって、次のものづくりに活かしていくみたいなことはありますね。
共に歳を重ねていくニットのために
-ユリ・パークのニットを愛用させていただいていますが、毛玉もできにくく、美しい表面感が保たれて形崩れもないことに着用年数が経つほどに驚かされています。ニットへの意識が変わり、何十年も大好きなニットを着続けて歳を重ねていけるなんてなんて素敵なんだろうとユリ・パークのファンになりました。
YURI:嬉しいです。20年経っても今でも着てくださっている方ももちろんいるし、でも失敗もたくさんあって。度目(ニットの網目の密度を表す単位)がうまくいかなくて2年後、3年後はこうなっちゃうのか~という経験をたくさんしてきて、今も失敗しながらものづくりをしています。毛玉は本当に奥が深くて私も全部をわかりきったわけではないのですが、その中でいろんな糸、紡績の専門の方とお話したりとか、私自身も学ぶ中で先ほどお話したように繊維って本当に生き物のようで、毛玉ができるのも原因が一つだけじゃないんですよ。
まず原料をどんなものを使っているか、繊維の形状だったり、それがどういう紡績でどういう糸作りをされているか、その糸がどういう度目で編まれているか、これらのどれひとつがうまくいかなくても毛玉のできるニットになってしまう可能性があるんですよね。それでもやっぱり良い原料を使って綺麗に紡績されていて、糸がしっかり目が詰まって編まれている、でも糸が呼吸できるテンションを追究して美しい編地のニットを作りたいと思っています。
毛玉の原因って摩擦なんですよね。摩擦の上に水分だったり熱だったりが加わるとどんどん毛玉の原因っていうものが増えていくのですが、きちんと収まるところに編み目が収まっているとそのゆらぎが少ないんです。そうすると比較的毛玉のできにくい編地があがる。でも、いつもそこにバッグを持つんです、いつもここがこすれるんですということがあればそこに毛玉はできることがありますし、毛玉ができるまでにはたくさんの原因があるんです。でもそれをなるべく全部つぶしていく。
良い原料を使って、いい紡績がされた糸を選んで、しっかり編地を編んであげる。そこまでを私たちが頑張ってやっていきたいと思っています。あとは皆さんにぜひブラッシングをしていただきたいです。毛玉の中にも嫌な毛玉と、良い毛玉があるんですよ。良い毛玉ちゃんはブラッシングして手入れしてあげるとホロホロと繊維がほぐれてまた開放されるんですよね。毛玉はホコリなどを核としてどんどん大きくなってしまうので、まずホコリがついた時点でブラッシングしてホコリを落としてあげることでより毛玉になりにくくなります。
髪の毛もブラッシングを丁寧にするとつやつやになるのと一緒で、ニットもブラッシングしたらつやも戻ってくるし、長く着ていただける。そういうニットとの付き合い方も一緒にセットでお伝えしていきたいというふうに思っていて。だけど経年変化もするし、モノだし、型崩れもするし、それが当然だと思っていて。ずっと着て欲しいけれど、でもモノだから「ずっと」はないんですよ、でもアフターケアとしてお修理やクリーニングなどのメンテナンスすることはニットのものづくりと並行してずっとやっていきたいと思っています。
-クリーニングなどのメンテナンスだけお願いしてもいいのでしょうか。
YURI:そういうお客様もいらっしゃるんですよ!ぜひご相談ください。わたしは水に通して洗っていただくことをおすすめしているんです。それはやっぱり、そのほうが繊維が喜ぶというか綺麗になるんですよね。でもカシミヤなど繊細なものでご自宅でお洗濯をするのが不安な方もいらっしゃいますし、ジャケットなどレザーボタンのついているものはシーズンの終わりにお預かりして、一度すべてボタンをはずして、お洗濯してブラッシングや毛玉のカットなどのケアをしてお戻しすることもあります。すごく綺麗になりますよ。本当に綺麗になるのでその喜びもあり、お渡しした時のお客様のお顔を想像すると嬉しくなります。
目に映る景色や人に心を動かされる
-次に、デザイナーとしてのユリさんについてもお伺いさせてください。どのようなことからインスピレーションを得てデザインを考えているのですか?
YURI:実はデザイナーといわれるとピンとこないところもあって、私はデザイナーというよりはニットの技術者のほうなのかなと思っています。というのはこういうニットの技術を使えばこういうディテール表現になるという発想がデザインに繋がっているんです。だからこのテクニックを使いたい、このテクニックを12ゲージで取り入れるとこういう表情になる、そしたらこの形がいいねというものづくりです。何かを見てはっとデザインが思い浮かんでということはあまりないですね。
-そうなんですね。ユリ・パークのニットから伝わる確かなものづくりは、そういった技術面が支えているデザインということがあるのかもしれないですね。また、シーズンごとに登場するシーズンカラーがいつも楽しみです。どのような想いでそのシーズンのカラーを選ばれているのですか。
YURI:実は私自身はベーシックな色が好きなのですが、色を選ぶときは冒険の色を選んでみたり、例えば22SSのシーズンカラー‘ CIELO ’の時はコロナ禍の中でふと空を見上げた時に、人間が作ったものは変わっていくけれど神様が創ったものは変わらないなぁと思って、そういうものづくりっていいなぁと思ったときに綺麗なブルーを使ってみようかなっていう気持ちになったりとか。あとはイタリアの方が今回のナチュラルダイの色のような色味を着ていらっしゃるのをみると、本当にはっと胸がきゅんとするというか、カシミヤでああいう色を着こなしている方がとても素敵で、あぁいいなぁと思うんです。だからそれが結構イメージにあります。そういう方と出会った記憶とか、憧れもあります。イタリア人の方は本当に素敵に色を着こなしていて、かっこいいし素敵だなぁと思う色味ですね。
-20周年という節目でつくられた今回のコレクションはどういった想いでラインナップされているのでしょうか。
YURI:お客様と対話し、ご要望に沿ったものをお作りしていきたいと思い、余白を持ったコレクションにしています。ユリ・パークらしいフォルムということは前提として、素材のことだったり、ディティールやバランスだったりはお客様のイメージに応えられるような、カスタムオーダーのようなものづくりをこれからの歩みの中で深めて行きたいという気持ちです。きちんと届ける人が見えるニットを作ることが、職人たちのモチベーションにもなっています。
カシミヤのラインは今回メインにナチュラルダイの草木染のラインを持ってきました。草木染らしい染めの表情や経年変化もあるので、実際に選んでくださる方はお好きな方かもしれませんが、ぜひ見ていただきたいし着ていただきたいと思っています。オリジナルの編柄は20周年だね、という会話の中で手横編み機の職人がいくつか編柄のアイディアを出してくれて、その中から試作を重ねて作り上げました。手横編み機の表現は無限なんです。
20周年を迎えて感じること
-ユリ・パークを立ち上げられた当初からこの20年の間に、ユリさんの中で変わってきたこと、反対変わらないことはありますか。
YURI:ずっと永く着てもらえるニットを作りたいという想いではじまり、その想いでずっと作り続けてきてました。今はそういう想いもありながらも、職人たちに喜びを感じてもらいたい。一人ひとりがそれぞれの自分に与えられている才能を活かしてもっとニットのものづくりの中で新しい発見をしていって、いきいきと仕事をしてくれることがユリ・パークのニットがもっと良くなる一番の道だなと最近は思っています。
原料大事、糸大事、どうやって編むかも大事だけど、やっぱり人が大事なんだなということは20年経って一番思いますね。だからそれぞれが活かされるニット作りの現場を作るのが自分の仕事でもあるし、皆の引き出しをもっと開けて。私も一緒にまだ知らない自分の引き出しを開けてみたいということをここ数年は強く感じるようになりました。
仕事の中でしんどいこともあると思います。本当に忍耐の仕事ですから。それでも皆がユリ・パークの完成系はこうだよね、ということを意識してやってくれていることが本当にすごいなと思うし、皆への感謝が尽きないです。そして皆がまだ自分自身も気づいていないそれぞれの才能をもっと引き出しあえばまだ次のステージに皆でいけるんじゃないかという気がしています。
-21年目のこれからのユリ・パークが考えていること、展望についてお伺いさせてください。
YURI:20年やってこられたことは本当に不思議だなと思うんですよね。私はただただものづくりが好きで、ニットを作ることがやっぱり一番好きだなと思うんです。でもブランドを動かすということに結構時間を費やす面もあって、ものづくりとのバランスが難しいと思うこともありましたし、ユリ・パークという小さい船だけど小さい船なりに困難があって。でもそれを乗り越えてこられたことが本当に不思議だなぁって自分でも思うんですよね。ということは、なんだかやっぱりこのニットを作り続けることに意味があるんだなぁとずっと思ってきましたし、何で続けてこられたんだろうと思うたびに、ニットを通して私が与えられている役割があるんだなぁと思ってきました。
せっかく私たち皆で想いを込めて1枚ずつ作るんですよね。だからこれからはもっとお客様と対話しながら、このお客様に届くんだというニットをもっと作っていきたい。たくさんの数は作れないけれど、一枚一枚のニットをきちんと届けていくことと、ニットを育てていくというところでアフターケアも責任を持ってやっていきたいと思っています。
私は何も考えずに「ユリ・パーク」というブランド名をつけたんですよね。自分の名前でね。こんな風に展開すると思っていなかったので(笑)。でもその名前をつけた限りは私が選んで、私が指示書を書いて、職人たちにきちんと伝えて、デザインであったり自分の役割でもある部分をしっかり担っていきたい。でも先ほどもお話したようにもっと職人たちの引き出しを一緒に開けて、高め合ってニット作りを追求していきたいと思っています。
-最後にハオス、ハオス&テラスのお客様へメッセージをお願いします。
YURI:この場所で何度も受注会をしていただいて、私たちの歩みをずっと見てきてくださって、まずは感謝の気持ちでいっぱいです。着ていただいた後に何かここが気になったというようなところがあればぜひ教えていただけたら、次のものづくりにもっと活かせるかもしれません。とにかく、皆さま本当にありがとうございます。